獅子頭伸のフランス情報;パリのつびぶやき。

在仏約40年の経験を生かしてパリを中心とした文化社会情報をお伝えしていきます。k

パリに暮らして40年以上が経ちました。情報誌パリ特派員、日本映画祭のプログラムディレクタ-などをしてきました。恐らくパリに骨を埋めるでしょう。日本映画紹介の仕事は続けています。年齢は還暦過ぎてから忘れています。そんな日本人男が触れる日常や特にカルチャ-シ-ン、またパリから見た日本の事などを書いていきたいと思っています。ヨロシク。

歴史の転換期と芸大美人女子学生ジュリエットとの出会い。

 小池百合子の希望の党が敗北したニュ-スを聞いて、やっぱなんとなくアラブっぽいな、という感想をもった。先入観にとらわれすぎかもしれない。
 彼らは立技の攻撃は勇猛だが寝技となると結構脆い面があるから、と思う。
 自分の体験である。


 安部自民党が大勝したが各フランス有力全国紙の扱いは小さかった。
 中国共産党全国人民大会の三分の一にも満たない。フランスで中国の存在感は増す一方である。15年位前とは様変わりだ。最早「ジャパン、ナンバ‐ワン」と胸を張って歩く日本男児はどこにも見当たらない。むしろ中国人と混同されて腐ってるだろう。
 知識人の有力全国紙ルモンドは安部は戦犯の祖父岸信介からの流れを汲むを歴史修正主義者であると規定。その分析記事を一面で掲載した。
 
 丁度その頃、第二次戦時下の日本文化を研究のテ-マにしているという可愛いチュニジア女子学生と議論した影響で、ネットで小林正樹の「東京裁判」を朝3時まで見てしまった。
 大政翼賛会の結成とか戦争に至る経過がよく似ているなと思った。
 歴史はやり二度繰り返すのか。


 目下パリは華やかな芸術の秋の真っ最中で、今季は天候もよく街も美しい。
 テロのリスクは絶えずあり戒厳令は解除されないままだが、芸術界も国際的で多彩多様な豊かさ。  
 地上で楽園を探すとしたら、それはパリではないかと、時々思う事がある。


 隣のスペインでは歴史的大事件が起こっている。カタロニア州が独立宣言。大変な事になっている。フランス側でも国境を接するパルピニオンなどの都市は文化民俗学的にはカタロニア文化圏で独立派を支援している。
 スペイン戦争で独裁者フランコに迫害されてフランスに逃げ移り住んだ人も大勢いる。
 
 高級ホテルでコンセルジュをしている知人のスぺン女性は「自分はカタロニア人で、政治の話はしたくないが、独立派の気持ちはよく分かる」といっていた。


 誰しもがまさか武器による内戦はないどろうと信じているが。
 歴史だって人間の運命だって一寸先は闇。情勢は時間の経過と共にどんどん袋小路に追い詰められたいる。全く先が読めない。
 
 独立宣言をしたカタロニアの州知事はベルギ-に逃げ込んでいるが、スペイン政府は国際指名手配した。ベルギ-政府が国際条約に従って身柄を引き渡せば反逆罪で20年は投獄されるという。
 フランスもバスク地方、ナポレオン生誕地コルシカ島などで武装独立派の動きがある。決して他岸の火事ではない。
 世界の地理政治情勢がどんどん変化している。歴史はどう動いていくのか。
 
 我々が世界史の曲がり角にいるのは確かだと思う。


 文楽公演の開演をカフェのテラスで待っていた美しい芸術大学の女学生と知り合った。 少し離れた向い側のテ-ブルにいた。
 
 細身の繊細な身体とシンプルでエレガンスな服装で、すぐに美しいと目についた。
 
 さすがに年齢差を考えると話かけて見る気にはならなかったのだが、去年半年日本にいいたという話が切っ掛けになって会話が弾んでしまったのだった。


 ドレス風の服の割目の裾からすんなりと伸びた足を組み替えた時、エロティックな太腿を見てしまった。綺麗な脚だった。抑えていた気持ちが一気に緩んでしまった。

 名前はジュリエット、芸大生で専攻は映画だとか。
 
 東京に去年半年滞在したことがあり、来年も何処か勉強の実習が出来るところが見つかればやはり半年くらい東京に滞在したいという。
 
 調子に乗って齢の差など忘れてメイルアドレスを聞き、後日の映画に誘ってしまった。
 さすがに来ないだろうと期待しないでいたら彼女は来た。


  カフェのテラスで向き合ってみると、顔の線が繊細で、何しろ瞳が格別だった。
  フランス人には珍しい東洋的な細目で瞳は澄んだ青。切れ目から見渡せる美しい湖だと思った。


 映画館から出て、トイレの間待っていて貰ったのだけど、この時に離れて見た立姿がまた華奢でエレガンスで格好よかった。

 これからも時々会う約束をした。
 
 しかし人生は残酷だ。それ以上に発展する事がないのはわかり切っているのだから。
 恋人になる筈がない。
 それでも会いたいのは、どこかすばらしい芸術作品を何時までも鑑賞していたい気持ちと似ている。


 美はその存在自体だけで嫉妬を抱かせものだ。
 恐ろしい破壊力「三島由紀夫の事例」も秘めている。


 彼女と外出すれば、美を前にして苦しむのは分かり切っている。
 若い男と親しく話しているのを見かけたら、権利ゼロでも嫉妬に狂うに違いない。
 
 それでも苦しみの方を選択した。再びこの美しさといたいという強い欲望。


 ビスコンティ-の名作映画「ベニスに死す」を見たことがある人なら、この非情な真実を理解できると思う 。
 
 ちなみにパリシネマテクでは同監督の大回顧展が開催、「地獄に堕ちた勇者」などキャパ「300席」の倍近くのファンが来るなど、大反響を呼んだ。


 パリが愛の都会なのは、ジュリエットの時のように、年齢差に屈託しない男女の思いがけない出会いがあるからだろう。


 自分もせめて40歳前後であれば彼女に恋を仕掛けたいと思うが、さすがに、ああもう還暦も過ぎてしまった。人生も運命も残酷だ。


 パリジャンヌには気紛れな子が多いから、彼女もある日突然約束に来ない時が来る気がする。それもどうしようもない事だ。


 「ベニスに死す」で美少年に魅了された初老知識人が必死で厚化粧をしていくが、その姿は美の虜になった人間のどうにもならない欲望の残酷さを見事に描き出している。