shishigashira2017のブログ

パリに暮らして40年以上が経ちました。情報誌パリ特派員、日本映画祭のプログラムディレクタ-などをしてきました。恐らくパリに骨を埋めるでしょう。日本映画紹介の仕事は続けています。年齢は還暦過ぎてから忘れています。そんな日本人男が触れる日常や特にカルチャ-シ-ン、またパリから見た日本の事などを書いていきたいと思っています。ヨロシク。

脈拍一秒に120回

自宅から徒歩5分のバンブ市立映画館はフリ-パスなので何時でも映画が見れる。
上映作品のレベルも高い。多い時は上映回時間の組み合わせで週に5本はみるから月にすれば20本くらいか。


今パリの商業映画館でチケットは11ユ-ロ前後だから200ユ-ロ程度は得してる。
理由はここで日本映画のシネクラブをやっているから。


市営とか聞くと貧しいと誤解する人も多いが、そんなことはない。
キャパは160席でスクリ-ンが大型で質が高い。
シャンゼリゼ辺りにある大映画会社の系列館と遜色ない。


この10日程で5作品みた。


リュック ベッソン新作「valerian et la cite des villes planétes」は駄作だった。
400年後とかいう宇宙を舞台にしたラブスト-リだったが、特撮に大金をつぎ込んでいるから見た目は派手ですごいけど話は陳腐だし画面はビデオゲ-ム。
主人公もよくある若い美男美女で魅力ゼロ。キャラメルのおまけみたいな俳優だ。
ベッソンってよくある名前を売るのがうまいだけのたいしたことのない映画監督と思いましたね。俺はカネを儲ける為に映画を作ってるんだって完全に開き直っている。


日本でもヒットしているらしいが、米映画クリストファ ノラン監督の「ダンケルク」はヨカッタア-。こんな風に戦争を描いた映画を見た事はなかった。
ドキュメンタリ-タッチというのでも劇的な戦争映画でもなくて、なんか目の前で起こってる戦争という事実を突き放して撮影しているという印象。
だから余計に目の前で起こってる事に息を呑む。すごい才能。


ただあえて不満を言えばラストの場面。
英雄的な活躍をした戦闘機が敵機の銃撃でエンジンがダメになりグライダ-のような浮遊力だけで飛行し続ける。
眼下には人々が生活を営む街並みが長く長く続く。
夕刻の北フランスの浜辺の不時着に成功する。
なんかこのあたりでセンチメンタルな面が出てくるので、ラストの印象が薄い。
後ですぐ思い出せなかった程。
でも全体としては大感動。傑作。


エミール・クストリッツアの新作「ミルクロ-ド」は見ながら東欧人ってどういう頭の構造をしてるのだろかと思った。日本人の思考形態からすれば、突拍子もない脈略で、その型破りが面白いと言えば言えなくもないのだろうが。
愛人役の女優はイタリア最高峰の美女優、モニカ ベルッチ。
彼女を恋人にした映画を撮りたくて作った作品じゃないのかと、そう疑った。面白くなかった。
デビュ-作「ジタンの時」から40年近く。やっぱり風俗的な監督だったから色褪せるのかな。


そして大発見、大収穫のフランス映画に出会えた。感激、大感動。
題「120battement par minute(どう訳したらいいのだろうか。直訳すれば一秒に120の脈拍とでもなる)」
素晴らしい。
監督はrobin campillo:2017年度カンヌ国際映画祭大賞受賞作。
これは2作目で、前作の「イースタンボ-イ」は話題になったが見逃してる。


エイズ感染予防の為に男女の感染者が中心になって結成した協会が活動していく話。
パリを拠点とするact-up-parisの実話を下敷きにしている。
フランスの協会の活動の仕方がよく描かれている。
特に二人の男性活動家が愛し合うようにり、それを中心にして映画は展開していく。
知名度は低いが魅力満点の実力俳優である。笑顔がすごくよかった。
それと、彼らが過ごす初夜の描き方は臨場感ある男の肉体と肉体が絡み合い。思わず息を呑む。こういう濡れ場は多分フランス人監督にしか描けない。


一人がエイズに感染し衰弱して死んでいく事になるが、病院のベッドで絶望して横たわる愛人に優しくキスをして片手が男根に下りていき、マスタ-ベ-ションで射精させてやり精液が下腹部に残っていて、顔がアップになると満ち足りた微笑みと一筋の流れる涙。
慟哭につき動かされる美しい場面だった。


また死で終わりにせず、ベットの死体の周りに友人たちが次々と集まってくる場面もすごくよかった。泣いた。
遺言でフランスでは珍しい火葬にして、メンバ-はエイズで一儲けをしている薬局会社の新薬発表パ-ティで遺灰をまき散らす。
ディスコテックで激しく踊る彼らがストボロライトに浮かんでは消える。


どうして日本では深い社会性もあり見応えもある骨太の映画作品が出てこないのだろうか、と思う。
個人の身辺雑記的な小粒の映画作品ばかりが目立つ。でなければ暴力映画。
このままでは日本映画はヤバイじゃないか。相手にされなくなるかも。


フランスには権威者の先入観などに惑わされず社会を正面から自分の同時代視線で見据える力のある新進監督が出てきているのだと思った。


30年前に死んだホモの友人を思い出す。


彼は東京で6年くらい暮らしていたがエイズにかかり祖国で死にたいと帰って来た。
歩くのさえやっとというやせ細り方だった。
入院してからは自分の醜い思い出は残したくないと誰とも会わなくなった。


親日家で愛人の男は病室が4だったので ここが最後の部屋だと思ったという。
毎日大量の薬を飲んでいて、こんなに薬を飲むんなら死にたいといっていたらしい。


セックスの大好きな男でプ-ルでもカフェでも絶えずやる相手を見つけていた。


密会の為、アパ-トを貸してやったら、ベッドが滅茶苦茶に壊れていた事もある。
「一体何をしたんだ」と聞くと「すごかった」とだけ答えてほほ笑んだっけ。


彼の遺言も火葬で遺灰は故郷の町ポでスぺン国境の森に友人たちが集まって蒔いた。


その友人たちも今は何をしているのか不明。


人生は一幕の悲喜劇に過ぎない、と思う。